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- 『そば屋の営業時間』&『あんこうの悪食』
◆そば屋の営業時間◆ 日本人がそば(そば切り)を食べるようになったのは、江戸は慶長年間あたりからのようですが、では、そばを売る飲食店が出てきたのはというと、それから50年ばかり後のことです。 ところが、ちょうどその頃、寛文元年(1661)にお触書が出ました。曰く、飲食店は暮六ツ(午後6時)以降は商売をしてはいけない、露店や荷台を引いて歩く煮売りの行商も夜の営業は禁止。火災が頻発していたために、こんなお触れとなったのです。 江戸っ子といえば、仕事が終わると銭湯で熱い熱い湯にザブリと浸かり、そば屋で軽く日本酒をひっかけ、仕上げにそばを食べてサッと帰る――こんな話が象徴的に語られますが、もしかしてこれは店が早く閉まってしまうことから生まれた生活形態を美化する、苦肉の言い訳だったのかもしれません。 それはともかく、実際は触書があろうと、そば屋が夜の寄合場になったことも多かったはずですし、夜そば売りは真夜中まで町を回り、やがては公認となりました。お上の思うようにいかないのが庶民というものなのでしょう。 平成10年から、当店では午後7時看板だった営業時間を8時閉店といたしました。若干の変更ではありますが、昼休みのない店としては、今はこれで精一杯。人々の生活の中でそば屋が生き生きと存在し続けていくための、ほんのささやかながんばりです。 そば かんだ やぶそば ●千代田区神田淡路町2-10 ●03(3251)0287 |
◆あんこうの悪食◆ あんこうのことを英語でなんというか、ご存知ですか? Angler--Fish、釣り人の魚と呼ぶんです。 あんこうの頭の先にはアンテナのようなものがついています。実はこれ、背びれが変形したもの。あんこうはこの背びれを揺らし、獲物を待つのです。 ゆらり、ゆらり。獲物が近づいてきてもすぐに飛びかかったりはしません。巧みにアンテナを動かして確実な射程範囲に誘い込み、ここぞというところで海水ごとひと飲みに―― このへんの駆け引きは、釣りが趣味のかたならご想像がつくことでしょう。 かくして、あんこうはなかなかの釣り人ではあるのですが、では何を食べているかというと、これが実に様々なのです。あんこうの腹から一番多く出てくるのは、アジやヒラメなどの魚類。イカや貝類なども少なくありません。港のセリ場であんこうが腹を上にして並べられるのも、何を食べているのか見当をつけるため。この魚だけは目方で単純に値が付けられないのです。 そういえば、当店ではあんこうの腹の中から別のあんこうが出てきてびっくりしたことがあります。悪食にもほどがある! ……いや、そのあんこうを身はもちろん、骨以外は肝も皮も食べ尽くしてしまう人間のほうが、よほど悪食でしょうか。 あんこう鍋 いせ源 ●千代田区神田須田町1-11-1 ●03(3251)1229 |