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各店のよもやま話

各店のよもやま話

◆器は手計りで選ぶ◆

 グラス、湯のみ、そば猪口……日常的に使っている器の直径を、ちょっと計ってみてください。8cm前後ではありませんか?
では、今度はご飯茶碗と汁椀を。男性用なら、口径が12cm前後といったところでしょうか。
 実は、この大きさは食器を手に持って食事をする日本人が、長い年月の間に編み出した絶妙のサイズ。コップのように横から持つ物は8cm、昔流にいえば3寸弱というのが日本人の手にすっぽり収まる大きさなのです。そして、お椀のように底に高台のある器の口径は、親指と中指で作った半円の中に収まる12cm、4寸という大きさ。この大きさなら、横や上からはもちろん、伏せていた椀もしっかりつかめるのです。さらに椀の口径と高さの比はほぼ2対1で、4本指で高台を支えて親指を上に伸ばすと、ちょうど椀の縁にかかって安定するという見事なバランスにも作られているのです。
 そうそう、夫婦椀や夫婦箸など男女で大きさが違う食器類も「手」が決めた大きさ。男尊女卑で女性用を小さくしたのではなく、それぞれの手が使い勝手のよい寸法を決めてきたのです。
 いいデザインなのになぜか使わなくなった器があったら、それは目は気にいったのに手が気に入らなかったからなのかもしれません。漆器をはじめとする日本の食器、次回お求めになるときは、手にも選ばせてあげてください。





漆器
黒江屋
●中央区日本橋1-2-6
●03(3272)0948


◆裏口からのお客様◆

明治5年、新橋―横浜間に日本初の鉄道が開通しました。ご存知「汽笛一声新橋を」、日本の鉄道の夜明けです。
 当初の蒸気機関車の定員は約200人。1日6便ほどが運行され、横浜までは約40分。決して安い値段ではなかったのですが、まさに「時は金なり」。乗客の8割が商売人だったそうです。
 さて、こうなると新橋はいよいよ人が集まり、最先端の情報が集まる町となりました。人が集まれば、接待の場も必要になる。新橋の花街がにぎやかになったのはいうまでもありません。
 ところで、その頃から当店に芸者さんたちがよくお見えになるようになったそうです。それも裏口から。
 当店の創業当時からの名物は座禅豆。岩手県の渋民村産の黒豆をふっくらと煮き上げたものですが、芸者さんたちのお目当ては、その煮汁です。毎朝、見番で行われる歌舞練習の前に立ち寄って一口飲むと、声がよく出るようになるとのことでしたが、過労気味の身体に黒豆の鉄分やビタミンが効いたのかもしれません。飲んだとたんに、素顔の芸者さんたちの白い頬に、ぽっと紅がさしたと伝え聞いています。




佃煮
新橋 玉木屋
●港区新橋1-8-5
●03(3571)7225
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