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各店のよもやま話

各店のよもやま話

◆おめでたい「おまじない」◆

 奈良の正倉院に、日本最古の箒があることをご存知ですか?
 孝謙天皇が758年の初子の日に蚕室を掃く神事に使ったもので、箒はまず、産物の出来を占い、豊作を願う呪具として日本の歴史に登場するわけです。
 では、箒が掃除用具として使われるようになったのはいつかというと、どうやら平安時代あたりからのようです。材料はもっぱら竹やワラ、シュロなどで、ホウキグサが用いられるようになったのは畳が生まれた江戸時代。現在使われているイネ科のホオキモロコシで作る座敷箒が誕生したのは江戸も末期になってからですから、箒の進歩はなんとものんびりとしています。
 それにしても、掃除用具となってからも、箒は時折、不思議なパワーを秘めた道具に戻ることがありました。たとえば江戸時代には、妊婦のおなかを新しい箒でなでると安産になるという「おまじない」がありました。箒で掃き出すようにラクに新しい命が誕生し、またその子に幸運を掃き寄せようという人々の願いが、箒の古来の意味を思い出させたのでしょう。
 座敷箒で掃いていると、その畳は艶が出て、長持ちするというのも不思議と言えば不思議です。そして何よりも、この静かで優しい掃除には、忙しい現代にあっても一家の平安を願う「おまじない」の心が込められているように思うのですが、さて、いかがでしょうか。

江戸箒
白木屋傳兵衛
●中央区京橋3-9-8
(地下鉄京橋・宝町駅から徒歩4分)
●03(3563)1771

挿絵


◆それぞれの町に名物あり◆

 当店の小伝馬町の店には、1年のうちたった2日間だけ売り出される名物がございます。「喜利羊肝」と「切り山椒」がそれで、毎年10月19・20日の宝田恵比寿神社の祭礼に合わせて開かれる”べったら市“の時だけの販売。べったら漬けを売る露店が立ち並び、呼び込みの声が幾重にも響く中でのお商売は、私たちにとっても楽しく張り合いのある年中行事です。
 深川不動尊の仲見世にある店では、いつのまにか「どらやき」が名物になってしまいました。2代目が考案したこの元祖どら焼きは、厚みがないので「3枚ちょうだい」と、お煎餅でもないのにもっぱら枚数でのご注文。ちょっとおもしろい光景です。
 本店の新川の店では、6代目が考案した「梅もなか」や、初代がペリー来航のすぐあとに売り出した「亜墨利加饅頭」が1年を通しての売れ筋商品です。かつては霊岸島と呼ばれ、情緒豊かな街並みが続いていたこの町も、今はオフィス街。お得意先へのお土産には、見た目の華やかさと話題性のあるものが喜ばれるのでしょう。
 本店、支店が同じものを売っておりましても、土地柄がお菓子を選び、名物を生むようです。東京という街がいろいろな顔を持っていることを、改めて嬉しく思う今日この頃です。

御菓子匠
梅花亭
●中央区新川2-1-4
(地下鉄茅場町駅から徒歩3分)
●03(3551)4660

挿絵
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