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- 『包み、結ぶ文化』&『食の文明開化』
◆包み、結ぶ文化◆ 贈答という風習は世界中にありますが、日本人ほど贈り物を丁重に包み、結ぶ民族は他に類をみません。それを象徴するものが、慶事や弔事に使われる金子包みでしょう。清楚な白い和紙は包んだものをけがれから隔て、水引は贈る人の心を伝えます。今日はこの水引について、もう少しお話しいたしましょう。 水引は、慶事には赤白や金銀など、弔事には黒白や銀などの色が使われますが、さらに用途によって結び方が変わります。大きく2つに分けますと、出産祝いのように何度もあってほしいことには蝶結び(両輪結び)、結婚や葬儀のように一度きりであってほしいことには結び切り。結び方の違いは、水引の両端を引くとほどけるのが蝶結び、ほどけないのが結び切りです。結び切りやその応用である飾り結びは見た目に豪華ですから高額を包む時には使いたくなりますが、入学や賀寿などのお祝いには使えないのです。 では、ここでちょっとした問題を。病気見舞いには何色の水引で、どんな結び方をするのでしょう。礼法や地域によっても違いますが、小笠原流礼法では赤白で結び切りとしています。最近は「お見舞いに紅白の水引?!」と驚かれることも多く、水引をかけないかたも増えています。包み結ぶという日本の文化、なかなか難しいものです。
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◆食の文明開化◆ 当店の史料の中に、明治12年7月、伊藤博文公が前アメリカ大統領のグラント氏をお招きになった午餐の献立表がございます。 最初に登場するのは、コンソメスープです。続いて羊、鶏、牛、鶉の4つの肉料理が並び、付け合わせと思われるアスパラガスの名が見えます。洋酒のシャーベットがあって、メインは七面鳥の蒸し焼き。そして、デザート。不思議なメニューだと思われませんか。なにしろ、肉料理ばかりです。 このメニューは、当時の日本人コックたちの苦肉の策だったのではないかというのが、私たちの推測です。お好みがわからぬ上に、日本の魚介類がお気に召すという自信もないために、前菜に4種の肉料理を用意して、選んでいただいたのでは……。また、メインの七面鳥などの食材は、グラント氏が乗ってきた船から譲り受けた可能性も大です。 当店は、明治5年に築地に「精養軒」の名で誕生し、上野の店は、その支店として明治9年に開店いたしました。そして、単なるレストランではなく開国日本の文化の高さを内外に見せる文明の窓としての役割を果たしていました。とはいっても、西洋料理は、すべてが暗中模索の時代。華やかな宴席の陰で、かたずを飲んで食事の進み具合を見守っていたコックたちの緊張が、メニューからは痛いほど伝わってきます。
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