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各店のよもやま話

各店のよもやま話

◆時代の風と鰹節◆

 当店が鰹節のフレッシュパックを売り出したのは、昭和44年です。それからあっという間に、日本のほとんどのご家庭から鰹節削り器が姿を消してしまいました。いわば私どもは、鰹節削り器を遠いものにしてしまった張本人(?!)なのですが、このフレッシュパックこそが日本人の味の原点である鰹節を救ったともいえるのです。
 と申しますのも、当時の日本はモーレツ時代へと走り出した時期で、人々は料理にかける時間と手間を惜しむようになっていたのです。鰹節がインスタント食品やうまみ調味料に対抗できる唯一の生き残り策が、香り高い削りたての鰹節をそのままパックするという発想の転換でした。
 あれから約30年。当店がいま力を入れている「和食倶楽部」は、鯖の味噌煮などを真空パックにした調理済み冷凍食品です。つまり、さらに調理を単純化、簡略化した便利商品。ただ、この商品では、あえて電子レンジではなく、袋ごと熱湯で10分間煮ていただくという手間をお願いしています。その方が、各素材の風味が生きるという思いから……。
 日本人の発明した鰹節のすばらしさと、和食のおいしさを未来にも伝えていきたい。鰹節の老舗は、江戸っ子の意気地で時代の風と格闘しながら、創業302年目の秋を迎えています。
挿絵



鰹節
にんべん
●中央区日本橋室町2-3-1
(地下鉄三越前駅から徒歩3分)
●03(3241)0241


◆浅草っ子は年中多忙◆

 浅草といえば、浅草寺。推古36年、3人の漁師の網にかかった黄金の観音像を祀るために堂舎を構えたのが始まりとされる古刹です。そして、その3人を浅草の鎮守として祀ったのが浅草神社。この社の大祭を「三社祭」と呼ぶのも、そのためです。
 さて、その三社祭ですが、現在は5月の第3金・土・日曜が祭礼日。数ある日本の祭りのなかでも、その賑やかさと華やかさで屈指とされる祭りですから、祭礼日が近づくと氏子町内会は大忙し。当日はもちろん商売どころではありませんし、終われば後片付けでおおわらわ。そして、夏のほおずき市、花火大会が終わり、秋の東京時代祭を迎える頃には、そろそろ翌年の三社様のことが気にかかり始めます。どこそこの町内で、法被を新調するらしいと聞けば、「すわ、わが町内でも!」。
 まあ、こんな調子で寄り合いを重ねているうちに、年も押し詰まると、また仕事に追われる日々がやってきます。お正月1カ月間はどの家も同じ状況なので、新年会などは2月に。やがて、お花見の時期がきて、あれよあれよと言っているうちに、また祭りに向けての忙しい日々が始まるのです。
 年齢を重ねるごとに、浅草に生まれ育った幸せがわかってきたような気がします。義理と、人情と、お祭りと…。浅草はいい町ですよ。
 挿絵



天ぷら
中清
●台東区浅草1-39-2
(地下鉄浅草駅から徒歩5分)
●03(3841)4015
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