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各店のよもやま話

各店のよもやま話

◆大きな「鯨」と小さな「どぜう」◆

 初代、越後屋助七が武州(現在の埼玉県)北葛飾郡から江戸に出てきて奉公を積み、ささやかな店を開いたのは享和元年(1801)のこと。今年、当店は創業2001年目を迎えることができました。ありがたいことです。
 なんといってもお客様あっての商いですが、こうして続けてこられたのには浅草という地の利と「どぜう」という看板料理があったからにほかなりません。そして、もう一つの看板メニューが、くじら鍋。
 くじらを出すようになったのは、2代目助七の時からです。どぜうに並ぶ名物はできないものかと考えた助七は、ある日「どぜうが一番小さい魚なんだから、一番大きな魚を売ってみたい」と思い立ちます。
 今の人に言わせれば「鯨は魚じゃないよ」と笑い飛ばされるところでしょうが、なにせ当時のこと。愛嬌のある発想だったのではないでしょうか。
 2代目が店を譲り受けたのは1840年。天保の大飢饉の直後で幕府政治が崩壊し始めた時期、商売も難しい時代でした。そんななかでの、くじら料理というのは、せめて食べ物で大きく楽しい夢を描きたいという気持ちを形にしたメニューだったのかもしれません。
挿絵



どぜう汁
駒形どぜう
●台東区駒形1-7-12
(地下鉄浅草駅から徒歩5分)
●03(3842)4001


◆西郷どんと西瓜◆

 当店の創業は天保5年(1834)。初代が現在の埼玉県越谷市千疋から上京、日本橋近くで果物や蔬菜を売る店を開いたのが始まりです。そして、飛躍をとげたのが2代目の時代。妻となって嫁いできた「むら」が駒形の大店の娘で、その縁から一流料亭・八百善に出入りするようになり、さらに、そこに集まる各界の著名人、粋人からもお引き立てを賜わるようになったのです。
 そんな顧客の一人に、あの西郷隆盛公がいました。店が薩摩屋敷に近いこともあって、むらはしばしば「おっかあ、でっかな西瓜持ってこいよ」と、親しく声をかけられたといいます。
 西瓜はアフリカ原産で、日本にもたらされた年代は不明ですが、寛永年間(1624〜44)に、琉球から薩摩に伝えられたのが始まりともいわれています。西郷さんにとっては、故郷を思い出す果物だったのかもしれません。
 明治6年、ご存知のとおり西郷さんは失意のうちに江戸を去ることになります。帰郷の数日前、むらは西郷さんに「おっかあに屋敷をあげようか」と冗談ともつかぬ話をされたという話も伝わっております。
 さて、その日、むらが最後にお届けした果物は、なんだったのでしょう。頃は10月。西瓜でなかったことはまず確かだと思うのですが……。
 挿絵



果物
千疋屋総本店
●中央区日本橋室町2-1-2
(地下鉄三越前駅A8番出口すぐ)
●03-3241-8818(代)
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