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各店のよもやま話

各店のよもやま話

◆心を癒す千代紙雛◆

 ちょうど1世紀前の明治33年、すなわち1900年の4月に、東京で初めて個人が所蔵している時代雛の展示会が催されました。好事家諸氏が自慢の雛を持ち寄って公開したもので、2日間で500人ほどの来会者があったと申します。当店3代目の書付によりますと、元禄年間の時代雛から象牙製や陶製の斬新なものまで、それは見事な雛が並んだそうで、主催者や参会者たちの優雅な太平ぶりは、日露戦争前夜の鬱屈した時代に対する市民のささやかな抵抗だったかとも思われます。
 当店は江戸千代紙や江戸の張子などを取り扱っておりますが、お雛さまに関連する商品は、なかでも最も人気の高いものといっていいでしょう。
 1枚の千代紙に全国の名物雛を集めて描いたものや、千代紙を巻いて作った千代紙雛や張子雛などは、いかにも春がきたと思わせる、ほのぼのとした風情。こうしたお雛様は、海外へ行かれる人がお土産として持っていかれることも多く、雛祭りの時期を過ぎてもご要望がございます。
 日本の美や優しさを伝える江戸千代紙――これからも生活に彩りを添える愛らしい江戸の文化をお伝えしていきたいと思っております。
挿絵



江戸千代紙
菊寿堂 いせ辰
●台東区谷中2-18-9
(地下鉄千駄木駅から徒歩5分)
●03(3823)1453


◆日本ビール史と佃煮◆

 浦賀沖にペリー率いる黒船が現れたのは1853年。翌年も黒船はやってきて、幕府に多数の品物を献上しました。そのなかに「土色を呈し、おびただしき泡を立つ」と記述された飲み物が含まれていました。・・・そう、ビールです。
 かくのごとく当初は怪しまれたビールですが、明治維新(1868)後まもなく正式に輸入開始。明治4年にはドイツビールだけでも月間2万ダースが輸入されたといいますから、またたくまに民衆に広まったことが推測できます。
 ところで、当店の創業は明治2年。そして、名物の「海老鬼がら焼」は、その当時から作り続けている商品です。佃煮に「焼き」の技法を取り入れたのも初めてなら、醤油だけで味つけしていた従来の佃煮に砂糖を加えたのも、初代の工夫でした。
 店を起こしたばかりの初代が、何からヒントを得て新タイプの佃煮を創作したのかは伝えられておりません。が、もしかしたら「ウワサの、ビールとかいう異国の飲み物に合う歯ごたえのいい酒肴はできないか・・・」などと考えたのかも・・・。
 いずれにしても、明治維新は政治だけではく、庶民の味覚にまで一大変革をもたらした文化の転換期でした。グルメ業界もベンチャー時代。苦労はあったでしょうが、初代はおもしろい時代を生きたのではないでしょうか。
 挿絵



江戸前佃煮
海老屋總本舗
●墨田区吾妻橋1-15-5
(地下鉄浅草駅から徒歩4分)
●03(3625)0003
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