◆3月 雛祭り2◆ |
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・お雛様を買いに
旧暦の2月末から3月初めにかけて、江戸各所に雛市が立ちました。雛市は尾張町(銀座5丁目)、浅草茅町(浅草橋)、池の端中町、牛込神楽坂上、麹町、芝明神前などにも立ちましたが、群を抜いて盛大だったのが、「日本橋十軒店(じゅっけんだな)」の雛市。場所は、現在の三越本店から少し神田寄りに歩いたあたりです。
通りに面した人形店はもちろん、この期間だけ沿道の商家を借りて商いをする雛店もあり、通りの中央にも背中合わせに露店がずらり。そのにぎわいは『江戸名所図絵』にも「実に太平の美と云はんかし」と書かれたほどでした。
また、この時期になると、雛を売る行商も町に売り歩きにきたようです。「雛を呼び返し涙を拭いてやり」という川柳は、娘の涙のおねだりに根負けした母親が、一度通り過ぎた雛屋さんを呼び返す情景。いまも昔も、泣く子に勝てない母親の情は変わらないようです。
ところで、雛祭りといえば最も多い疑問が、「女雛・男雛のどちらを右に、どちらを左に置くのが正しいのですか?」というもの。正解は「どちらもOK。どうぞ、お好きなように」なのですが、詳しくは【各店のよもやま話】の「吉徳」の欄をご覧ください。
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現代の内裏雛【吉徳コレクション 所蔵】
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・白酒は、桃の節句に酔うお酒
雛祭りに、菱餅などとともに雛壇に備えられるお酒が、白酒。もともとは清酒に蒸し米と麹(こうじ)を入れてつくっていましたが、江戸時代に入ると焼酎や味醂も使われるようになりました。
貞享元年(1684)の『雍州府志』によると、京都には白酒屋が多く、油小路出水の店と衣棚三条の店のものがおいしく、いずれも博多の練酒にならってつくっているとあります。また、六条油小路の酒屋は「山川酒」という名で白酒を売っているという記述がありますが、のちに江戸では、この「山川」が白酒の別名となりました。常磐津や長唄の白酒売りの文句になったり、役者絵に残ったりしているので、ご存知のかたも多いことでしょう。桃の節句が近づくと、天秤棒でかついだ桶の胴に「山川白酒」と書いた札を貼った白酒売りが、江戸の町を売り歩いていたのです。
また、神田鎌倉河岸の豊島屋の白酒は別格との評判で、店の前には大行列ができたそうです。この時期には他の酒や醤油類などは商わず、白酒だけを量り売りすることとし、人ごみのせいで卒倒する人のために、店では医者を待機させていたとか。その繁盛ぶりは、長谷川雪旦の『江戸名所図会』や、安藤広重の『絵本江戸土産』などに生き生きと描かれています。
ほかに東海道の原宿(現在の静岡県沼津市原)でつくられた「富士の白酒」も有名で、歌舞伎十八番「助六所縁江戸桜」の白酒売りの文句にも登場します。
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長谷川雪旦が描いた『江戸名所図絵』天保7年(1836)年のうち鎌倉町、豊島屋酒店白酒を商ふ図。「例年二月の末、豊島屋の酒店に於て雛祭りの白酒を商ふ、是を求めんとして遠近の輩黎明に市をなして賑へり」と説明し、その繁盛ぶりを鮮明に描きました。
【豊島屋本店 蔵】 |
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