こんにちは。老舗のコンシェルジュです。 2月3日は節分。厄除けに、その年の恵方(えほう)を向いて丸のままの巻き寿司にかぶりつく「恵方巻き」を召し上がる方もいらっしゃると思いますが、あれは大阪・船場の商家が節分に巻き寿司を食べていたのを、昭和48年から大阪の海苔問屋の組合が広めていった行事なんだそうです。チョコレート屋さんがバレンタインデーに便乗したのと同様の、たくみな販促キャンペーンだったんですね。
ところで、そもそも、なぜ節分の行事に「巻き寿司」を食べるのかというと、ちょうどその時期が、海苔が一番おいしいからシーズンだからなんです。乾物なので“旬”を意識することは少ないのですが、海苔の旬はまさしく真冬の11月後半〜3月。 日本橋・三越前にある海苔の老舗「山本海苔店」でうかがうと、年によって多少の差はあるものの、ほぼ毎年12月初めから1月末まで「新海苔出ました」の張り紙を店頭に出しているそうです。
おいしい海苔の選び方のコツも、うかがってみましょう。 「おいしい海苔の見分け方は?」 「一般的には深みのある色をしたツヤのあるものがよい海苔とされていますが、どんなふうに召し上がられますか?」 えーっ!? 逆質問? どうしてでしょう。 「“味も香りも日本一おいしい海苔です”と言ってお出しできる海苔はもちろんありますが、それをラーメンやうどんに入れるのはおすすめできません。やわらかく口どけがいいので、あっという間に溶けてしまいますから」 そういえば、ラーメン屋さんの海苔はいつまでも四角い形状を保って立っていますよね。なるほど、海苔って用途によって使い分ける必要があったんですね。 「海苔を選ぶには、味、香り、口どけといった味覚に関わるもののほかに、色、つや、形などの要素も重要です。一般的に言えば味や香りが良く、やわらかな海苔が最高なのですが、海苔巻きなどに使うなら、風味は少し落ちても、しっかりと形をとどめて溶けない海苔を選ばないと料理になりません」 ああ! これで、私で作る海苔巻きが市販のものに比べて崩れやすい理由が納得できました。腕が悪いだけじゃなかったんですね(笑)。
ちなみに、海苔の養殖の仕方には大きく二つあって、一つは海底に打ち込んだアンカーにブイをつけて網を張り、海の栄養分をもらいながら育つ「浮き流し」漁法。成長が早く、黒々とした海苔ができますが、多少硬めの海苔になります。 そして、もう一つは海に支柱を立てて海面と平行に網を仕掛けるもので、潮の引くと日光浴をして光合成をし、潮が満ちると海中の栄養をもらって育つ「支柱柵」漁法。九州の有明海が最高の海苔の漁場とされているのは、潮の満ち干が平均6メートルと大きいから。太陽と海のパワーを借りて育つので風味がよく、口溶けのよい海苔ができますが、海の様子や海苔の成長具合を見ながら日々調整しなければならないという大変な手間がかかるため、一般的に価格も高めになります。 海苔の味わいの違いは、こうした養殖方法の違いにもあったんですね。
山本海苔店は、江戸後期の嘉永2年(1849)に日本橋室町で暖簾をあげた海苔の老舗。暖簾に染め抜かれた登録商標の「梅」の字は、海苔が同じ香りを尊び、梅の花が咲く時期と同じ寒中に採れるところからだそうです。 どこのデパートにも入っていて、誰もがその名前をご存知の店だと思いますが、「焼きたて海苔」をはじめ本店ならではの商品もありますので、ぜひ黒の暖簾をくぐってみてください。天井の高い、広々としたフロアが江戸老舗の風格を感じさせて、気持ちのいいお買い物ができますよ。